生成AI実践会は、経営者同士が集まり、AIの活用事例を学んで自社で実装するところまで一緒に進める会です。今回のウェビナーでは、運営する新谷が、実践会や参謀BARのイベント、各社の取り組みから学んだ「現時点の考え方」をまとめました。ツールの使い方ではなく、社長がAIで成果を出すための考え方の切り口を7つお伝えします。

前提:業績が良いのに、人を減らし始めている

MicrosoftやAmazonなど、業績が好調な海外企業が人員削減を進めています。業績が悪いから人を減らすのではなく、業績が良いのに減らしている。日本でも、上場企業の新卒採用数が前年より減りました。背景のひとつにあるのがAIです。

AI企業には巨額の資金が集まり、その資金がさらに開発に回っています。開発を止めようという動きは何度もありましたが、一度も止まっていません。競合がAIでコストを下げてきたら、そことの戦いになります。最初から人を雇わず、AI前提で参入してくる新しいライバルも出てきます。「自動化できない企業に未来はあるのか」。これが今回の問題意識です。

切り口1:「AIに何をやらせないか」を先に決める

多くの社長は「AIに何をやらせようか」と考えています。大事な問いですが、その前に考えるべき問いがあります。

「AI化しない」と決めた業務はありますか?

やらないことが決まれば、それ以外はすべてAI化の対象になります。今は技術が追いついていない業務も、いずれ対象になるでしょう。ここを決めておくと、その後の判断がブレなくなります。

実際に「やらない」と決めている会社があります。あるシステム開発会社は、エンジニアの育成と自尊心を守るため、コーディングにAIを使わないと決めていました(ただし昨年、AI活用に踏み切っています)。あるコンサルティング会社は、顧客接点にAIを使わないと決めています。お客様の社内調整を助け、利害関係を整理し、意思決定を支えること自体が価値だと考えているからです。

「やらない」と決めるのは大きな決断ですし、間違えたときの影響も大きい。だからこそ経営者の仕事だと言えます。

切り口2:サイエンスとアートの比率を決める

AI化しないものをどう選ぶか。ヒントになったのが、参謀BARのイベントに登壇いただいたロイヤルホールディングス会長のお話です。店舗数を約2割、営業時間を約4分の1減らし、24時間営業をすべてやめたうえで、1店舗あたりの月商を47%伸ばした方です。

会長は、差別化を考える軸として、事業を2つの要素に分けていました。

・サイエンス:論理、ロジック、システム。価値を生むプロセスそのものをAIで効率化・進化させやすい
・アート:感性、エモーション、手作り感。価値を生む部分は人が担い、それ以外をAIで置き換える

あわせて、「価値」にも2種類あるといいます。

・Value:比較しやすく、数値化しやすく、真似されやすい価値。料理の量や価格、提供の速さなど
・Worth:比較しにくく、数値化しにくく、真似しにくい価値。地域の特産品を使う、一人ひとりに寄り添う接客など

Valueはサイエンスの領域でAI化しやすく、Worthはアートの領域で人が担うもの。この比率を何対何にするかを決めるのが経営者の仕事だ、というのが会長の考え方です。同じグループでも、天丼てんやは8対2、ロイヤルホストは4対6で考えているそうです。事業ごと、業態ごとに比率は変わります。

切り口3:「部分非合理・全体合理」が戦略になる

会長が大事にしているのが、一橋大学の楠木建教授から学んだという考え方です。部分も全体も合理的なやり方は、誰もが真似するので差別化になりません。良い戦略は、部分では非合理でも全体では合理的なものです。

ロイヤルホストのビーフシチューがその例です。多くのチェーンはセントラルキッチンで調理し、店舗では温めるだけにしています。ロイヤルホストは、あえて店内で肉を切って入れている。効率だけを見れば非合理ですが、これがお客様の「おいしい」に大きく効き、積み上がって差別化になります。

切り口4:テクノロジーの優位は長続きしない

時間軸で見ると、テクノロジーによる競争優位は今は取りやすいものの、長くは続きません。うまくいった方法は広まり、AIが他社にも同じ提案をするようになるからです。Value中心の差別化は短命になりがちです。

だからこそ、Value・サイエンス寄りの業務は一刻も早くAI化するべきです。早い者勝ちで、他社の半分の人数で回せる、より速く高度なサービスを出せる、という優位を先に取れます。一方で、長く続く差別化は、人にしかできない仕事や、ビジネスモデルそのものから生まれます。AIで手放した作業の分を、人にしかできない仕事に回していく。この組み立てが大事になります。

経営参謀の場合は、参謀BARという「人が集まる場所」を残すと決めています。効率は悪く、コストもかかり、人が運営しています。それでも、人が集まる場をつくることが今後の競争優位になると考えているからです。

切り口5:何からAI化するか。3つの入り口

自分で調べて試行錯誤し、どんどんAI化を進められる会社は、体感で全体の1%もありません。残りの99%の会社におすすめなのは、次の3つです。

  1. 事例を調べる
  2. AIに詳しい人に聞く
  3. AIに聞く

事例を知ると「うちでもできるかもしれない」とイメージが湧きます。

・AIに詳しい発信者を何人かフォローする。東京商工会議所の中小企業向け生成AI活用ガイドのような資料や、最新AIでサッカーの試合動画から選手の走行距離やパス成功率を数値化した例など、一次情報が早く届きます。「工場や店舗の防犯カメラの映像も、同じように分析できるのでは」と発想が広がります
・ChatGPTやClaudeに「〇〇業界の中小企業のAI活用事例を、出典を明記して教えて」と聞く
・セミナーや展示会で、実践している人の生の声を聞く

生成AI実践会でも、営業プロセスをAI化して新卒の営業未経験者が入社2か月で受注した事例や、印刷会社が製造現場にAIを入れて検査などのコストを大幅に下げた事例を学んできました。1%の人たちの成果をどう引っ張ってくるかが、今はとても重要です。

切り口6:詳しい人に聞き、AIには自社の情報を渡して聞く

身近にAIに詳しい人がいたら、迷わず聞いてください。経営参謀では、favyの髙梨社長に勧められたClaude Coworkとv0を本格導入し、「なぜもっと早く使わなかったのか」と思うほど自動化が進みました。

・Claude Cowork:イベントの募集ページを作って「告知一式よろしく」と頼むだけで、Facebookイベント、noteの下書き、プレスリリースの下書き、投稿文、メール文面まで作成。2時間かかっていた作業が5分で終わります。ほかにもAIニュースの収集、参加者リストの取得、参加者へのタグ付けなど、20以上のタスクが毎日動いています
・v0:エンジニアでなくてもWebサービスを作って公開できるツール。会社のホームページはすべてv0で運用しており、インタビュー記事の下書きを渡せば数分で事例ページができあがります

AIに聞くときは、公開情報だけで聞くと一般論しか返ってきません。会計ソフト、メール、カレンダー、Googleドライブ、アクセス解析、PCの操作ログなど、自社の情報をAIにつなぐと提案が一気に具体的になります。PCの操作ログを分析させたところ、月の作業時間や曜日ごとの傾向を踏まえ、「この業務を自動化すれば月37時間減らせる」といった提案まで出てきました。組織全体でつなげば、どこがボトルネックかもAIが教えてくれます。

現場がある会社には、「AIとの面接」という聞き方がおすすめです。

  1. 現場の写真を撮り、「これはどういう状況かわかる?」と聞く
  2. 正しく答えられたら、良い状態と悪い状態の写真を見せて「違いがわかる?」と聞く
  3. 見分けられたら、どのタイミングで判定させるかを決めて、自動化を頼む

新しいモデルが出るたびに、前回できなかった業務でもう一度面接をする。これを繰り返して現場の自動化を進めた会社があります。

まずはメールの返信や下書きなど、取り組みやすい業務から始め、慣れてきたら重要度や影響度の高い業務に広げていく順番がおすすめです。

切り口7:専門チームで進めるか、全員で使うか

進め方は大きく2つに分かれます。ロイヤルホールディングスは専門チームがAI活用を設計し、現場はAIを使っていると意識していないそうです。一方、favyは全員がClaude Coworkを使い、それぞれ自分の業務を自動化しています。

どちらも成果は出ています。始めやすいのは専門チーム型、効果が大きいのは全員活用型です。最初の一歩として、どちらで進めるかを決めておきましょう。最終的には、意図しなくてもAIが勝手に動いている場面が増えるほど、「AIを活用している」状態に近づきます。

まとめ

まず「AI化しないもの」を決める。それが自社の差別化そのものになり、それ以外はすべてAI化の対象になる。何からAI化するかは、事例を調べ、詳しい人に聞き、自社の情報を渡したAIに聞いて決める。AIの時代こそ、何を人に残すかという経営判断が問われています。